ノウハウ

第3回 スーパー店長達の働く基本姿勢

みんなの力を結集する

店は店長一人で決まるが、店長一人では何もできない。
当然である。
カウンターだけの店であればそれも可能かもしれないが、大きな店になればなるほど、店長一人では何もできないのである。
よく、ピークタイムにワーカーになっている店長を見るが、そんな店は共通してオペレーションが混乱している。
勿論、額に汗しながら働くことは、我々の商売では大切なことであるが、それでお客様に対する責任が果たせれば問題はない。
しかしワーカーになりきっている店長達は、店長としての責任を果たすことが出来ている否か、それが分かっていない。
ワーカーで店の中を走り回っているのだから、いったい何が店で起こっているのか、これが分からないのである。
スーパー店長達は基本的にワーカーにはならない。
勿論、必要なときにはワーカーもする。それもトップワーカーレベルである。
しかし、彼らが一番心がけていることは、全てのお客様の満足である。
そして彼らは、お客様の満足は店の総合力だと考えている。
店の総合力とは、働く人達一人ひとりの仕事振りの足し算である。
我々の商売はメーカーのようなライン化の掛け算はできない。
一人ひとりが、どれだけ仕事をこなし、そしてどれだけチームワークを取ったかで、お店の評判が決まるのである。
例えば、同じ5人でオペレーションをしたとしても、仕事振りが悪ければ50点の出来映えしかない場合もあれば、逆にみんなの仕事振りが高く、チームワークも良い状態であれば120点の出来映えもあるということである。
だから彼らは、自分がいかにスーパーウエイターになった所で、全てのお客さまの満足を得ることは不可能であるということを認識しているのである。
彼らは、全てのお客さまの満足を得るためには、一人ひとりの仕事振りを高めることと、チームワークの取れたオペレーションをするしかないと考えているのである。
そして、みんなの力を結集することで、お店の総合力を高め、結果としてお客さまの満足を勝ち得るのである。
そこで今回は、そんなスーパー店長達の働く基本姿勢を観察することにした。

考動する店長

考動する店長のこの考動は、考え動くと書いて「こうどう」と読む。
これが最初の、働く基本姿勢である。
つまり、考動する店長とは、お客様に対する責任と、会社に対する責任と、そして従業員に対する責任のために、自ら考え、自ら行動する店長のことである。
常に、上からの指示を待つ店長とは違うのである。
1980年代~90年代の外食産業の成長期には、特別に店長としてお客様のために何か物事を考えなくても、十分にお客様は入っていたし、十分に儲かってもいた。
バブル期などは、完全に人が不足している状態にもかかわらず、お客様が沢山来てくださったものだ。今考えると、まことに申し訳ないことをしたと思う。
お客様が来なくて悩むのではなく、お客様が来すぎて悩んでいた時代である。
嘘みたいな話であるが、現実にあった話である。
だから店長達も、お客様のことについて特に考えようとはしなかった。
それは、お客様の需要の方が、供給する我々よりも多かったためであり、店の存在そのものが、価値があった時代だからでもある。
店があることで、お客様も満足していたのである。
そんな時代は、店長も本来の店主としての仕事が出来なくても、十分に通用したのである。しかし、今や時代は一変している。
消費の低迷に、供給過多の大競争時代である。
消費が低迷してくると、お客さまの目も今まで以上に厳しくなってくる。
それは、1回・1回の外での食事を大切にするからである。
今や、店そのものの存在価値はなく、店での質が問われているのである。
本当に価値のある店しか入らない時代である。
そんな価値のある店をつくるために、スーパー店長達は、常に考え、そして常に行動する店長になることを目指しているのである。
そんな考動する店長が、経営者としてのスタンスを身に付けてゆくのである。

徹底することからスタート

考え行動する店長として成功するためには、まず物事を徹底することが出来なくては始まらない。
身だしなみを徹底する。
掃除の習慣を徹底する。
挨拶を徹底する。
手洗いを徹底する。
休憩室の使い方を徹底する等である。
いくら問題点を発見し、原因を分析し、そして対策の判断を決定しても、物事ひとつ徹底できないようでは、店は何一つ変わらない。
勿論、徹底するだけで店の全てが良くなる訳ではないが、徹底ひとつ出来ないようでは、店は間違いなく良くならないということである。
この物事ひとつを徹底することが出来ない店長が実に多くいる。
私は、店を見ることで、日頃店長がどんな姿勢で仕事をしているかが全て判る。
それは、店長の日頃の仕事の進め方や姿勢が、そのまま店の状態として表れているからである。特に、パート・アルバイトの仕事振りである。
パート・アルバイトの仕事振りを見ることで、店長がもしその時いなくても、その店長が日頃、パート・アルバイトに対してどのように接していて、どのような躾をし、そしてどのようなトレーニング行い、どのようなコミュニケーションを取っているのかを判断するのである。
店長の日頃の仕事は、すべて、パート・アルバイトを通して表現されているのである。
良いことも、悪いことも全てが、パート・アルバイトの仕事振りに出ているのである。
だから店長としての基本姿勢が大切になってくるのである。
その店長としての働く基本姿勢の一つに、物事を徹底することがある。
これは、物事を徹底してゆくための店長に必要な3つの力のことである。
この3つの力が合体して、はじめて物事を徹底出来るのである。
その3つとは、

一つが、言い続ける力
これは、物事を徹底してゆくために店長がとる最も重要な行動である。
徹底したいことを、出来るようになるまで、あきらめないで言い続ける力のことである。この言い続けることを、何回言えたか?どれだけ繰り返し言えたか?そして、どれだけそのことに情熱を傾けることができたか?これで、結果が決まってくるのである。
一番良くないことは、途中で言うことを諦めてしまったり、言うことを止めてしまうことである。これだと、元の状態に逆戻りである。
いや、元の状態と言うよりも、悪化の状態である。
それは、言い続けることの出来ない「店長の言葉の権威の失墜」による、店長の存在感が弱くなることを意味しているのである。
だから、いったん決めたら、最後まで言い続けることである。
そのためには、従業員のみんなに宣言しなくてはならない。
例えば「身だしなみを徹底しますよ」、と言うことをみんなの前で宣言することで、後戻りできない店長としての自分の立場を作ることである。
こんな、自分を断崖絶壁に立たせることで、自分の力を磨いてゆくのである。
では次に、二つ目の徹底する力について説明する。

この二つ目の力は、見逃さない力
徹底してゆく過程では、必ず何度か徹底しようとする取組みが崩れることがある。
その時、ついつい、面倒で後で言おうとか、1回ぐらい言いやといったことが出てしまうものである。
実はこの1回・2回の見逃しが、折角取組んでスタートしたことが最終的に徹底できない原因になることがよくあるのである。
1回も見逃さない、そんな店長の強い意志が、自分で決めた取組みを徹底してゆくのである。
では最後に、三つ目の徹底する力について説明する。

この三つ目の力は、妥協しない力
徹底する項目によっては、みんなからできない理由が多く出てくる。
例えば身だしなみの問題もそうである。
自分の都合で、髪を短くできないとか、爪を切ることができないとか、自分は金髪が好きだとか言った問題である。
そこには、自分の都合が優先していて、店のことなど何も考えていないにもかかわらず、店長はついつい妥協してしまう。
こんな妥協が、折角取組んでスタートした課題を、最終的に徹底できない原因のひとつになるのである。
妥協するのであれば、最初から徹底行動をしてはいけない。
妥協を繰り返せば繰り返すほど、店長としての権威は失墜してゆくのである。
最後には、自分の存在価値がない、そんな店の店長になってしまうことを覚悟しなくてはならない。妥協するとは、そう言ったものである。
妥協によって、もう一つ大きな問題が発生する。
例えば、身だしなみの規定があっても、その店で出来ている人と、出来ていない人が存在していると、一生懸命に規定を守っている人が店長の妥協で損をすることになる。
ひどい所になると、店長の妥協の繰り返しで、店にとって本当に必要な人が辞め、逆にルールを守らない人だけが残るなってことも起こってくる。
そんな一生懸命な人が損をする店が、繁盛店になるはずがない。
だからこそ、一生懸命な人のためにも、店長として妥協してはならないのである。
以上が、店長の働く基本姿勢の二つ目である「3つの徹底する力」である。
この3つの徹底する力こそが、これからの不断の改善の基本にもなってくるのである。

がんばれ加藤店長! Part1

前回、ピーク15分前出勤の加藤店長である。
その後、加藤店長といろいろと話す中で、自分の行動を改め、お客さまと会社、そして従業員のために、良い店長になりたいということになったので、私もお手伝いすることにした。
そこでこの先々、加藤店長の店で私も一緒になっていろいろと不断の改善を進めてゆくつもりである。
今回はその手始めとして、店の人達の身だしなみの徹底からスタートすることにした。
そのプロセスの全てを紹介したいのだが、紙面の関係上、抜粋した形でそのやり取りを載せることにしたので、そのことを予め了承してもらいたい。
それでは、加藤店長の「身だしなみの問題解決」に入ってゆく。
先ずは、店に身だしなみの基準があるか?どうか?である。

五十嵐「加藤店長、身だしなみの基準はありますか?」

加藤店長「ハイ、項目は少ないですが勿論あります」

五十嵐
「それじゃ見せて頂けますか?」

加藤店長
「ハイ、この身だしなみチェック表です」

五十嵐
「なかなか良くできているじゃないですか。」
「これが出来れば十分に店は良くなりますよ」
「ところで、加藤店長これ使っていますか?」

加藤店長
「ハイ、1年に1回ぐらいは使っていると思います」

五十嵐
「1年に1回ですか。最低でも月1回は必要ですよ」
「いろいろな帳票は、使いこなしてこそ、初めて成果が表れてきます」

加藤店長「帳票が成果ですか?」

五十嵐
「ハイ、全ての帳票は単なる紙切れでしかありませんが、しかし、帳票を完全に使いこなせるようになってくると、いろいろな物事が、確実に・もれなく、しかも効率よく出来るようになってきます」

加藤店長「私の場合、まだまだ使いこなせていない状態ですね」

五十嵐
「その通りです」
「加藤店長の場合は、一度に多くのことをやり過ぎて、ひとつの事をやり切ることが出来なかったことが、使いこなせない原因のように思います」
「だから、あまり最初から難しい帳票を導入しても仕方ありません」
「最初は簡単なもので十分です。簡単なものでも使いこなせば十分に成果を得ることはできます」
「今回のような身だしなみであれば、出来るまで毎月実施することです」
「それが出来て、初めて内容を見直せばよいのです」

加藤店長
「ハイ、今回は出来るまで毎月やります」

五十嵐
「全員が出来ているようになれば、3ヶ月に1回で済みますが、さらに高いレベルの身だしなみに挑戦するのであれば、やはり毎月は必要です」

加藤店長
「そうですね。更なる成長を目指さなくては、店は発展しませんから、これからは毎月実施します」

五十嵐
「そうですね。それでは、先ずはこれが出来るようになることです」
「それじゃ、今いる人から身だしなみのチェックをしてください」

加藤店長
「ハイ分かりました」
「これでよろしいですか?」

五十嵐
「ハイ、結構です。加藤店長これを見てどう思いますか?」

加藤店長
「基準が合って、基準がない状態ですね」

五十嵐
「では、これにはどんな問題があると思いますか?」

加藤店長
「ハイ、問題は2つあると考えます」
「一つは、身だしなみが悪いことで、店の第一印象がよくない点です」
「それと、もう一つは一生懸命に基準を守っている人が損をしている点です」

五十嵐
「すごいじゃないですか加藤店長」
「では、これから何をすれば良いのかも分かっていますか?」

加藤店長
「ハイ、もう一度基準を明確にして、このことを徹底することをみんなに宣言し、そして店長として3つの徹底する力を発揮することです」

五十嵐
「その通り、言い続ける力!見逃さない力!そして妥協しない力!この3つですね」

加藤店長
「ハイ、あせらずに一つのことから確実に徹底できる店長になってゆきます」

五十嵐
「一度に多くの事に取組んでも、全てが中途半端な状態では、何も成果は生まれませんからね」
「確実に、一つひとつ、これが大切です」
「加藤店長これからもよろしくお願いします」

加藤店長
「ハイ、これからも一生懸命にがんばって行きます」

「がんばれ加藤店長!」
~Let's Challenge スーパー店長への道~

店長には明言しなくてはならない「4つのや」がある

店には、身だしなみ以外にも、その他のルールや決め事があると思う。
それらは全て、店で働くみんなが楽しく、そして気持ちよく働くためのものであり、その結果として、お客さまに喜んで頂ける店にするためのものである。
そのルールや決め事が店で守られていないということは、店で働いているみんなが、気持ちよく一生懸命に働けないということであり、お客さまにも喜んでいただけないということである。
これは、店長が明言しなくてはならない「4つのや」と言うもので、店長として物事を明らかにして、言わなくてはならないものである。
今後の事例等で詳しく説明してゆくので、今回は「4つのや」だけの説明に留めておく事にする。その「4つのや」とは

一つ目が「やってほしいこと」を明らかにして伝えること
これは、仕事のやり方やルール等を変更する時に、みんなに「こうやってほしい」と言うことを明らかにして伝えるために使う。
転勤したときや最初のアプローチ等はこの方法が効果的である。

二つ目は「やってほしくないこと」を明らかにして伝えること
これは「やってほしいこと」の逆の言い回しである。
やってほしいことを明言してもやってもらえない場合、この「やってほしくないこと」を明らかにして伝えるために使う。
勿論、一と二を同時に表現することでより効果的に問題を解決できる。

三つ目は「やらなくてはならないこと」を明らかにして、伝えること
これは絶対的なルール(出退勤のルールやハウスルール)に対する「やらなくてはならないこと」を明らかにして伝えるために使う。
これは100%守らなくてはならないことに対する明言でもある。

四つ目は「やってはならないこと」を明らかにして伝えること
これは「やらなくてはならないこと」の逆の言い回しである。
これもやらなくてはならないことを明言しても治らない場合に、この「やってはならないこと」明らかにして伝えるために使う。
これも三と四を同時に使うことで、より効果的に問題を解決できる。
これが「4つのや」である。徹底する事と併せて、この「4つのや」を明言することから、スーパー店長への道を歩んでもらいたいと考える。

99点は0点と同じ
物事には、99点では0点と同じというものがある。
例えば、店で働く人のスキル(技能や熟練度)の問題は、常に100点を目指しながらも、70点であったり、80点であったりするが、これは成長の過程であり、その点数が上がることがなにより大切になってくる。だから、70点でも、80点でも問題ではない。大切なことは、70点が75点になり、75点が80点になるという、成長を目指した課題になっていれば良いのである。
しかし、ルール違反やサボりという問題は、99点まで出来ても、残り1点が出来なければ0点と同じである。
残り1点を怠ることで、99点が80点になり、そして80点が50点にもなってくる。だから99点は0点なのである。
みかん箱の一つの腐ったみかんと同じで、一つの腐ったみかんを放置すると、その他の良いみかんまでもが腐ってしまうということである。
店も同じである。
チームワーク良く、みんなが一生懸命に働ける店にしてこそ、繁盛店への道である。
そのためには、100点でなくてはならないことは、必ず100点にするまでは徹底することである。
これが、レッツ・チャレンジ スーパー店長達の働く3つの基本姿勢である。

以上