本格的な人気の蓄積
サービス・マネジメントPart1とPart2で、ステップ1のアピアランスとあいさつのサービス、ステップ2でお客さまをお待たせしないサービス、そしてステップ3で感じの良いサービスとお話してきたが、今までのサービスはどちらかと言うと、お客さまの満足を高めると言うよりも、お客さまの不満足を少しでもなくすといったほうが正しい。
しかし、これからは本格的に人気の蓄積を図るための実践的なサービスである。
これが出来てくると、「あのお店はサービスが良い」とお客さまから評判を頂くことになる。
なかなか出来ないからこそ独自性になり、店の良い評判を得ることになるのである。
サービスの質を高めることは大変難しいことだが、難しいからこそ独自性になり、お客さまの感動を得ることが出来るのである。
そこで今回は、そのサービス・マネジメントのステップ4の状況対応サービス、ステップ5のお客さまと会話の出来るサービス、そしてステップ6の特別なサービスについて解説してゆきたいと考える。
お店ではいろいろなことが起きる
まずは、お客さまからのお手紙を見て頂きたい。
店長・従業員の皆様へ 私は、お宅様のお店を何時も利用させて頂いているファンの一人です。 実は、先日家族で夕食に利用した時、とてもうれしく感じたことがありました。 それは、子供が不注意でジュースを倒してしまい、テーブルの上を汚してしまった時のことです。 その際、名前は分からなかったのですが、接客係の方がすぐに布巾とおしぼりを持って来て、やさしく声をかけながら、きれいに片付けて下さいました。 その時嫌な顔ひとつせず、笑顔でテキパキと対応して下さり、私たちはとても楽しいひとときを過ごすことが出来ました。 さらに、子供が不注意で倒したジュースも、気付いたら新しいものを持ってきて頂き、子供も大変喜んでおりました。 暗いニュースが多い時代ですが、この日は本当に楽しい一日でした。 ありがとうございました。また必ず利用させて頂きます。 |
これはお客さまからのお礼のお手紙である。
こんなお手紙の貰える店にしたいものだが、ただ「お客さまは神様です」とお念仏をいくら唱えても、できるものではない。
まれに、そんなことが出来る人がいても、それは特別でその人の生まれ持った天性のように言われている。
しかし、店では毎日マニュアルに無い、いろいろな出来事が起こっている。
たまたまその人がいれば、お客さまに喜んでもらえるかもしれないが、そんなことは先ずない。
では、どうしたら良いのか?
答えは簡単である。全員がいろいろな状況に対応できるようになればよいのである。
これが、サービスが進化した4番目の状況対応サービスである。
店ではいろいろな出来事への対応ができてこそ、繁盛店への道である。
店の不注意もあれば、お客さまの不注意もある。
当然であるが、殆どの問題は突然起こる。それも忙しい時に多い。
だから、嫌な顔をしたり、対応が遅い結果お客さまからクレームを頂くことになる。
こんな店は、お客さまが増えないことを心配するよりも、自分たちでお客さまを減らしている心配を先ずはしなくてはならない。
大切なことは、いずれの場合においても、お客さまに満足をして頂いてこそ、次の来店につながるということである。
そのために開発されたのが状況対応のトレーニング手法である。
その状況対応のトレーニング手法とは、突然の出来事に対して、その問題を想定した対応のやり方を、全員に考えてもらうことにある。
つまり、マニュアルのように答えは無いのである。
「わたしだったら、こうする」と言う、考えが重要なのである。
「この時にはこうしなさい」「こんな場合はこうしなさい」と言うマニュアルでは、突然の対応と、お客さまの感動を得ることはできないのである。
そんなマニュアルでは、逆に二次クレームになることだってある。
この状況対応トレーニングは、「もし(if)こんな場合、あなただったらどうしますか?」と言う、問いかけで全てが構成されている。
例えば、
1) 突然雨が降ってきました。あなたならどうしますか?
2) お客さまが注文した料理と違うと言っています。あなたならどうしますか?
3) ご家族連れのお客さまです。あなたならどんな挨拶をしますか?
4) ドレッシングをもう少し欲しいと言われました。あなたならどうしますか?
5) お子様がジュースを倒してしまいました。あなたならどうしますか?
6) お客さまが大きなお荷物を持っています。あなたならどうしますか?
7) お客さまが席を代わりたいと言っています。あなたならどうしますか?
と言ったことから始め、店で日頃起こっていることをテーマとして選び、みんなでそのことについて考えることである。
テーマについては、最低でも10~20のテーマは挙げてもらいたいものである。
このテーマ選びも、実は日ごろの仕事の問題意識からくるのである。
こんなテーマ選びからすることで、状況対応トレーニングへの参画意識が全く変わってくるのである。
店の状況や、お客さまからのクレームなども、みんなに知ってもらう絶好のチャンスでもある。だから、みんなで考えなくてはならないのである。
このように考えながら、答えを導いてゆくことで、お客さまを大切にする気持ちと、そして、なによりやさしい行動が生まれてくるのである。
この状況対応トレーニングによって得られる一番の成果は、お客さまの満足の他に、従業員とのコミュニケーションが良くなることにある。
それは一方的なコミュニケーションでは、この状況対応トレーニングのカリキュラムをこなしてゆくことは出来ないからである。
考えさせ、そしてその考えを聞き、その考えに対して評価して、この状況対応トレーニングは完結するのである。
徹底した双方向のコミュニケーションによるトレーニングが、この状況対応トレーニングの最大の特徴でもある。
これが、Step4の状況対応サービスである。
みんながいろいろな状況に対応できてこそ、繁盛店への道である。
ステップアップがなにより重要
アピアランスと挨拶が出来るようになり、そして全てのお客さまをお待たせしないでサービス出来るようになり、さらにそのことを感じよくサービスが出来るようになり、いろいろな状況にも対応できるサービスが出来るようになって、ようやくお客さまとの会話が出来るサービスへの挑戦である。これがStep5である。
最近人気の癒し系のレストランなどは、実にこのことが上手い。しかし、ステップ1~4が全くと言っていいほど出来ていないために、全てのお客さまの満足を得ていない光景をよく目にする。ステップ1~4が出来、そしてこれが出来てくると、「あのお店はサービスが良い」とお客さまから評判を頂くことになる。
ステップ5だけが出来ても、逆に評判倒れのお店と言った評価をお客さまから頂くことになるので注意しなくてはならない。
本当に良いサービスとは、そんな全てのお客さまの満足を追及した質の向上から来るのである。そのためには、サービスの質を明確にしたステップアップ表と、そして、そのオペレーションを可能にする仕組づくりと、最後は、全てを決定する一人ひとりのパフォーマンスレベルを高めることの出来るOn-the-Job Training(教育訓練)が必要になってくるのである。
サービスレベルを挙げるにはそんな大変な努力が必要になってくるのである。
しかし、なかなか出来ないからこそ独自性になり、店の良い評判を得ることになるのである。
ステップ5、お客さまと会話をするサービス
ご案内し、ご注文を伺い、そしてお料理を運んで、最後に会計をする。これがレストランでの仕事の簡単な流れである。
この4つの流れで、いかにしてお客さまとの会話を楽しみ、お客さまの満足度を高めるかがステップ5のお客さまと会話をするサービスである。
しかし、これがなかなか難しいのである。
いざやってみなさいと言っても、勿論出来るものではない。
中には平気でお客さまとの会話が出来る人もいるが、店の人全員が出来なくては意味がない。
そこで、ここでもStep4の状況対応トレーニングと同様に、いろいろなシナリオを作成して、その人独自の会話の方法を考えさせ実践するのである。
その前に、お客さまとの会話に慣れて頂くために、お客さまとちょっとしたゲームをすることで、まずは会話を楽しむことを覚えてもらう。
これはゲームをすることが目的ではなく、ゲームを通じてお客さまと会話をすることで、会話に対する不安感を取り除くことと、会話の楽しさを少しでも知ってもらいためである。勿論、お客様には少しでも楽しい時間を過ごしてもらうためである。
簡単なところでは、お客さまとジャンケンをし、お客さまが勝ったらノベルティーの商品をあげ、もしお客さまが負けた場合は、次回も必ず来店する「お楽しみクーポン券」なるものをあげることでよい。
これなどは、オペレーションに支障もなく、わずか30秒もあればでき、それでいて、お客さまも従業員も楽しめるコミュニケーションのツールになってくる。
そんなお客さまとの自然な会話が出来るようになってきたところで、お客さまとの4つのコンタクトポイントでの会話を考え実践してゆくのである。
ご案内の時の会話、ご注文時のときの会話、そしてお料理の提供時の会話、最後は会計時の会話である。
お客さまとの会話は、最初は何か一言でいいのである。
例えば、ご案内であれば「雨の中ありがとうございます」とか「今日は沢山でお越しいただきありがとうございます」と言うことから始めればよいのである。
ご注文の時などは、当店の人気メニューの紹介、料理の提供の時は料理の説明、そして会計の時には本日の感想を聞くと言った具合に、いろいろ考えれば出てくるものである。
このように、いろいろな形でお客さまとの会話は出来るものである。
これがStep5のお客さまと会話をするサービスである。
先ずは挑戦である。
自分が出来もしないことを、部下にやらせても上手くいくはずがない。
最大のモチベーションは、やってみせることである。
これも店長・支配人として働く基本姿勢の一つになってくる。
特別なお客さまへのサービス
最後は、Step6の特別なお客さまへのサービスである。
お客さまを差別することは良くないが、お客さまを区分することは必要である。
特別なお客さまとは、自分達の熱烈なファンであり、ヘビーユーザーであり、そして自分達のお店を宣伝してくれる人達である。
勿論、全てのお客さまが特別なお客さまになり、自分達の熱烈なフアンになって貰えればそれが一番であるが、それまでにはある程度の時間も必要である。
この特別なお客さまへの特別なサービス内容については、それぞれ店で考えれば良いことだが、最低でもお客さまのお名前だけは共通して覚えなくてはならない。
お客さまのお名前で挨拶が出来るようになってくると、お客さまと店の関係はより親密な状態になってくる。こんな親密な状態を築くことこそが、特別なお客さまへのサービスであり、自分達のお客さまづくりなのである。以上がサービスの進化する6Stepsである。
お客さまの満足と利益の追求
月商で2000万円・3000万円と売っている店でも、殆ど利益の出ない店や、ひどい所になると赤字の店もある。
商売は昔から儲かるものと決まっている。その商売がもし儲かっていないのであれば、それは商売とは言わない。ただし、適正利益での儲け、つまり、お客さまが得をし、そして我々も得をする利益でなくてはならないのである。これが繁盛店の秘訣でもある。
しかし、この利益が少ない店が実に多い。これには、いろいろな原因があると思うが、店では店長によるオペレーションとコストコントロールの店長マネジメントが正しく行われていないことが圧倒的に多い。
店長は単にお客さまの満足を得る良いオペレーションをすれば良いのかと言うと、そうではない。店長の仕事とは、良いオペレーションをしながらも適正な利益を上げることで、お客さまと会社への責任を果たすのである。このオペレーションとコストコントロールが店長マネジメントの2本柱になってくるのである。
今回のサービス・マネジメントの定義も、お客さまの満足を得る良いオペレーションしながらも、その良いオペレーションをいかにして効率よくやれ、そして適正な利益を上げられるかである。人海戦術でどうにか売上は取れても、利益が出ないということで、今度は人を削るとサービスのレベルが落ち、そしてサービスのレベルが落ちることでお客さまが離れる。そうなると、今度は売上が取れなくなる。
これだから、店舗損益が厳しくなるのである。
みんなが一生懸命に働いた結果が売上高であり、そして利益になってくるのである。
特にサービスオペレーションは全てが人件費で構成されているから、サービスレベルと人件費の関係を理解しなくてはならない。サービスの質を高めながらも、同時に効率を高めてゆくことに、サービス・マネジメントの本質がある。
店舗は、店長のマネジメント技術なくしては運営できないのである。