教育訓練技術を身に付ける
お店は人に始まり人に終わると言われるように、全ては人づくりからスタートする。
繁盛店の共通点に、働く一人ひとりの仕事のレベルの高さがある。
お店の評判とは、そんな働く一人ひとりの仕事振りで決まる。
私は、お店で働く一人ひとりが働く広告塔だと考えている。つまりお店で働く人達のパフォーマンスがそのお店の人気を決めるということである。
繁盛店とは、お店の働く人達の力が最大限に発揮されていて、お客さまの満足を得ているお店である。
そこでお店で働く人達の力を最大限に発揮するために必要になってくるのが、人の育成、つまり店舗で行われる実地での教育訓練である。
この教育訓練こそが、お店を繁盛店へと導くのである。
これが一般的に言われるところのOn-the-Job Trainingである。
これは店長・支配人がお店を良くするために身に付けなくてはならない特に重要な技術で、この教育訓練技術を身に付けない限りお店は絶対に良くならないのである。
つまり教育訓練が出来ない店長・支配人は、お店を発展へと導くことは出来ないし、ましてや繁盛店へと導くことなどは不可能である。
しかし、こんな基本的なことが出来ない店長・支配人が実に多くいる。
お店での教育訓練が出来ない理由にはいくつかあるが、そのひとつは店長・支配人としての経験年数を積めば実力がつくとでも思っているのか、新たな知識や技術を身に付けようとしないことがある。
これは全ての仕事の共通することだが、良い仕事をするためには日々勉強と日々努力が必要である。
店長・支配人にも同じことが言える。それは、いろいろと勉強をしながら日々努力するということである。
何も新たな知識や技術を身に付けないで、ただ年数と言う経験を積んでいけば実力派の店長・支配人になれる訳ではないことを認識しなくてはならない。
こんな当たり前の努力が何より大切なのである。
教育訓練の前提条件
On-the-Job Trainingはよく聞きなれた言葉だし、誰もが知っている言葉である。
しかし、その意味を完全に理解し実践しているかは別問題である。
店舗で確実にOn-the-Job Trainingが行われるためには、その前にお店で働く一人ひとりの任務が具体的に明確になっていなくてはならない。
つまり、誰がどんな仕事をするのかと言うことである。
これがあってはじめてOn-the-Job Trainingが行えることになる。
On-the-Job TrainingのJobとは、日本語で言うところの職務のことであり、その職務とは具体的な仕事の内容のことである。そして、その人にとって必要な仕事を実地に教えることがOn-the-Job
Trainingと言うことである。
そうするとトレーニングを行う前に、一人ひとりの仕事振りを通じて、何が出来ていて、何が出来ていない、そして何を教えるかと言うことが明確になっているということである。だからJob(職務)が明確になっていない状態でのOn-the-Job
Trainingなどありえないのである。
しかし、ほとんどはこの職務が明確になっていない状態で、教える人の勘や経験で教育訓練を行っている。だから一人前に仕事が出来ない人に仕事をさせていて、それを放置しても平気でいられるのである。
本当に良いお店を目指したいのであれば、良いお店を実現するための仕事の分担を明確にしたものをまず作ることから始めなくてはならない。
これが出来て本格的な人づくりがスタートする。
店長・支配人の仕事は、そんな人づくりをしながらお店を繁盛店へと導くのである。
それでは、本題のOn-the-Job Trainingの手法について説明するとしよう。
トレーニングの全体像
先ずは、トレーニングの全体像について説明することにしよう。
今回紹介するトレーニング手法は、トレーニングの5Stepsと言うもので、具体的なトレーニングの流れと、最終的に一人ひとりを一人前にするためのコミュニケーションの手法である。
トレーニングの5Stepsとは、
Step1.問題の発見
Step2.知識の充足
Step3.訓練の実施
Step4.仕事の評価
Step5.自立の支援の5つの段階である。
では、具体的に一つひとつのステップについて説明するとしよう。
Step1.問題の発見
Step1の問題の発見とは、教える項目を明確にすることである。つまり与えた仕事に対して出来ていることと出来ていない点を明確にすることである。
何を教えてよいのか分からない状態で人をトレーニングすることはありえないからである。この問題の発見のときに、出来ていない仕事についてはさらなる原因の分析が必要になってくる。
その分析とは、仕事を知らないのか、仕事は知っているが経験が不足しているために手際よく出来ないのかを明確にすることである。
つまり仕事に対する知識の不足と、経験の不足を明確にすることである。
このことが出来て、次の知識の充足と訓練の実施につながるのである。
Step2.知識の充足
Step2の知識の充足とは、問題の発見による不足する知識を見極めた上で、その知識を充足することを目的としているものである。
決して仕事が出来ないからといってすぐに叱るようなことは絶対にしてはならない。
仕事が出来ない理由には必ず2つのことがある。それは、仕事を知らなくて出来ない場合と、もう一つは仕事の経験が不足している場合である。
だから部下が仕事を出来ないことを嘆く前に、仕事をきちんと教えていないことを反省しなくてはいけないのである。
自分にとっては知っていて当たり前、出来て当たり前のことでも、教えてもらう当人にとっては知らなくて当たり前、出来なくて当たり前である。
だから仕事の知識を教える場合も、できるだけ具体的に仕事の内容を分かりやすく説明する必要がある。
注意しなくてはならないことは、難しいことを簡単に、そして簡単なことをさらに誰にでも出来るように説明することである。
相手が十分に理解できるまで、丁寧に説明してゆくのである。
実際にその仕事を自分でやってみせることも大切である。実はトレーニングを受ける人にとっては、これが最大のモチベーションにもなってくる。
コミュニケーションは何も話すことばかりではない。
「やってみせる」と言うコミュニケーションもあることを忘れてはならない。
最後には、相手が本当に理解したかを確認しなくてはならない。確認する方法は何も難しいことではない。
その方法とは、教わった仕事の手順やコツなどを、トレーニーに言わせてみることである。
単なる一方的なコミュニケーションでは、人は育たないことを認識しなくてはならない。そして教育には根気と情熱が必要なことをくれぐれも忘れてはならない。
ここまでの一連の作業を知識の充足と言う。
Step3.訓練の実施
Step3の訓練の実施とは、頭で理解できた仕事を今度は体で覚えてもらう番である。そのために必要なことが実際に仕事をさせてみることである。
つまり、覚えた仕事をやらせてみることである。この場合も、相手の仕事の習得状況を確認し続けなくてはならない。
このことを怠るから部下が仕事を覚えないのである。教えたつもり、訓練したつもりになってはいけない。
教育と訓練はその理解と作業の習得を確認することで最終的に仕事を出来るようにすることである。そのためには、訓練の状況を確認しながら間違いがあればその場で正すことが必要になってくる。そして、繰り返し、繰り返し訓練し、相手がのみ込んで実践できるようになるまで続けることである。
ステップ2の知識の充足とステップ3の訓練の実施とは、実際にやってみせながら、やらせてみることである。実は、教育訓練にはこれが一番大切なのである。
Step4.仕事の評価
Step4の仕事の評価とは、出来るようになった仕事の成果を称賛することである。
誰でも自分のやっていることが果たしてどのくらい成果を挙げているのかを知りたいものである。何も言ってくれないことには、今やっている仕事がそれで良いのか悪いのかが分からない。だからと言って、出来ないことばかり言われ続けることにもやる気を無くすものである。
一番やる気が高まる状態は上手くいったことを見逃さずに褒めることである。
仕事が出来ないのを叱ることばかりに才能を発揮するのではなく、小さな進歩を見逃さずに褒めてこそやる気を持って仕事に取組むというものである。
人は上手く出来たとき、それをきちんと評価してもらえれば、満足しやる気も起こってくるものである。
そのためには相手の仕事振りに関心を示し、それに応えることである。
このことをフィードバックと言う。
Step5.自立の支援
Step5の自立の支援とは、トレーニングの最終段階で、一人ひとりを一人前にし、自立した状態で仕事が出来るようすることである。
何時までも指示命令で動くのではなく、自分の仕事の範囲と責任を理解した上で、さらなる技術の向上を目指す状態にすることである。
このためには自分の与えられた仕事について自らが考え、そして判断できるようなトレーニングが必要になってくる。
ここでは、その自立の支援の手法としてコーチングを取り入れる。
この自立の支援ためのコーチングの特徴は、指示命令型のコミュニケーションから、自立型のコミュニケーションに移行することで、一人ひとりが今まで以上に高い仕事振りをすることにある。
そのためには答えを与えるのではなく、相手が自ら答えを見つけられるように、相手に問いかけるコミュニケーションスタイルにすることが重要である。
そこでこのコミュニケーションには「あなただったらどうしますか?」と言った質問形式を取ることが必要となってくる。相手が仕事について考え、学び、そして行動することで、本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようにサポートするためのコミュニケーションの手法である。
トレーニングの最終段階にコーチング手法を取り入れているのはこのためである。
自分が成長しているのに何時までも上司から指示命令を受けるのは誰でも嫌なものである。しかし、それに慣れてしまうと、今度は指示命令がないと動けない人間になってしまう。しかしこれでは繁盛店はできない。
繁盛店に持ってゆくためには、一人ひとりが最高のパフォーマンスを繰り広げなくてはならない。
そのためには、お店で働く一人ひとりが成長し続けなくてはならないのである。
そのための活動が教育訓練と言うことである。